内科・小児科・心療内科
佐久間内科小児科医院
〒964-0917
福島県二本松市本町1-237

TEL: 0243-22-0570
FAX:0243-23-4830

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診察室よりーその2ー

もくじ

メッセージ

インフルエンザワクチンについてのお知らせ

 情報によりますと、某製薬メーカーでのインフルエンザワクチンの製造認可に遅れが生じ、当初の予定より医療機関への供給が少なくなる怖れが出てきているとのことです。できる限りそのようなことがないよう対処したいと考えておりますが、もし万が一在庫不足となり、接種をご希望されるみなさまに十分な対応がかなわなかった場合は深くお詫び申し上げます。そのようなことがないよう、現在各製薬メーカーと交渉中です。

 また、小児の2回目インフルエンザワクチン接種料金を変更とさせていただきました。詳しくはこちらをご覧ください。

平成27年10月13日

今度の福島中央テレビに出演します

 福島県医師会が肺がんに関しての啓蒙番組をつくられるとのことで、禁煙の関係でお手伝いさせていただきました。収録は2時間近くでしたが、おそらく出番は5分程度でしょう。

 もしお時間があれば、お見逃しのないようご覧ください。

◆福島県医師会テレビ放映のご案内

テーマ
肺がんの診断治療と予防
 〜検診をじょうずに利用しよう〜
放映日
平成27年10月3日(土)
 午後3時30分〜午後4時
放送局
福島中央テレビ

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 本日午前、子どもさんの受診で26歳のお母さんが来院されました。子どもさんは咽頭炎でした。
 診察の後、お母さんがポツリと、「指輪が取れなくなっちゃったんですけど、なんとかなるでしょうか・・・」。
 右手の中指にはめていた指輪が抜けなくなっていることに昨日気づき、独りいろいろ頑張ったものの、痛いばかりで全然駄目だったそうです。

 もう二十数年前にもなります。ある病院のお手伝いしていた時に同じような方がいらっしゃいました。その方も、指の関節の出っ張りを指輪が通らなくなっていたのでした。誰に聞いても、「カッターで切断するしかない」と云われたとのことでした。

 その時、病院の先輩の内科医が慌てずに木綿糸を持ち出し、鼻歌交じりに指輪を取り出したのには驚きました。あのやり方を思い出し、この方にも試みようと決意しました。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 まず、木綿糸を1本、指先から指輪の下をくぐらせ手の甲まで伸ばします。指先の方の糸は出来るだけ長い方がよく、方向はどちらでもいいですから指輪の指先側で指をグルグル巻きにします。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 巻き終わったところです。今度は、手の甲側の糸をグルグルと廻しはじめます。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 廻し終えると、図のように糸は直線状となります。糸が巻いてあった「幅」の部分だけ、指輪が指先に移動したことになります。実際に、指輪はちょうど関節の上まで来ています。「痛いです」とお母さん。そりゃそうです。指輪が骨をガチガチに締め付けてんですから。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 再び、指先側の糸をグルグル巻きにした後、手の甲側の糸を廻しはじめます。糸のせいで指はかなり圧迫され、指先の皮膚が黒ずんできています。静脈の流れが滞っている証拠です。言い換えれば、これぐらいに圧迫しないと指輪が通り抜けることは出来ません。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 ようやくです。ようやく指輪がスルスルと滑らかに動きはじめました。

木綿糸を用いての、抜けなくなった指輪救出大作戦

 抜去成功です。おめでとうございます。
 お母さん、痛いのに耐えよく頑張りましたね。
 めでたしめでたし。

平成27年3月3日

講演のご依頼について

 「子育て支援セミナーについて」で紹介させていただいているように、これまでの10年間、60回に渡るセミナーを開催しております。子どもの事故予防、発熱時の対応、アレルギー疾患について、メディアやタバコの害など、時期に応じて子育てに頑張るお母さん方がお知りになりたい(と思われる)情報を提供してまいりました。セミナーは、これまで通り2ヶ月に1回のペースで続けていくこととなっております。

 校医をさせていただいている二本松市立大平小学校では、6年前から「防煙授業」を続けております。5年生を対象に、毎年1回行っております。最近では、他の小中学校からの要請も増えてまいりました。喜ばしいことです。

 また、大平小学校では、毎年4年生に対して「メディアの害の授業」も行っております。DVD、DSゲーム、スマホ、パソコンなどの「便利でおもしろい」とされる一連のメディア商品が、子どもたちの心と身体にどれほどの悪い影響をもたらすか、子どもたちの気持ちを傷つけないように気をつけながらお話ししております。

 タバコについては、一番聴いていただきたいのは喫煙者の方々です。以前の二本松市では、希望者を対象に年に一回「禁煙教室」を開催しておりましたが、最近はなくなってしまいました。おそらくは飽きてしまったのでしょう(笑)。お役所は、予算が出るか出ないかで動きが変わります。やむを得ないことです。

 禁煙教室ももちろん大切ですが、タバコをやめたい方を支援する立場の方々へのセミナーも重要と考えています。県北保健所や相双保健所にお呼ばれしてお話しをさせていただいたこともあります。また、公的機関、或いは私的機関にお勤めの保健師さんたちに講演を聴いていただいたこともあります。
大切なことは、喫煙者を悪者にしないこと。喫煙者こそが被害者であることを意識していただくことです。

 ウェット(湿潤)療法についても、幼稚園や保育園の先生方に聴いていただき、子どものケガについては、治療もさることながら予防が大切であることをご理解いただきました。
来週は、福島市の高校の養護教諭の先生方を中心とした集まりでお話しさせていただきます。

 10年前より福島介護福祉専門学校の非常勤講師である関係で、昨年から県内の介護福祉士を中心とする介護職の方々に、「介護職に必要な医学知識」というテーマでお話しを聴いていただいております。利用者さんの状態をどのように解釈すればいいか、どの時点で看護師さんや医師へ報告すればいいのか。日々悩みながら、みなさん本当に真剣にお仕事に取り組まれております。そういった方々へ何をどのように伝えればいいのか。それが自分自身の勉強にもなります。

 今後は、ご要望があれば積極的に講演、セミナー活動を行っていきたいと考えております。テーマや、料金については下記の如くといたします。
まずは、お気軽に当院までお電話、ファックスにてご連絡ください。

◆テーマ◆
・子育て支援に関すること(ちょっと気になる子、発達障がい児への対応を含みます)
対象:保育園、幼稚園の先生方、子育てサポートグループのみなさま その他福祉関係のみなさま など

・禁煙支援に関すること
対象 : 保健師、行政、医療関係のみなさま

・学校における防煙授業(ドラッグ防止も含みます)
対象 : 学校(小・中・高校)の生徒のみなさま

・ウェット(湿潤)療法について(ハンズ・オンセミナーのスタイル)
対象 : 保育園、幼稚園、学校の先生方、医療関係のみなさま

・介護職に必要な医学的知識
対象 : 介護福祉士を中心とする介護職のみなさま

◆講演料金◆
「防煙授業」以外は、1回2〜3時間程度で2〜5万円(程度)+交通費

 診療がありますので、講演は木曜・土曜午後、日曜のみ実施可能となります。
スケジュールの都合がありますので、お早めにご連絡ください。

平成26年11月21日

すごいぞ!安達広域消防本部 ~あの大雪の日の出来事~

 2月15日土曜日、当地をはじめとする東北地方一帯と関東全域に、観測史上最大と云われるほどの大雪が降りました。まだ、記憶に新しい方も多いことと思います。
福島も立派な雪国ですから、今シーズンはまったく積雪に見舞われなかったとはいえ、雪に慣れているのは当然です。多少の降雪に驚くことはありません。とはいえ、今回は違いました。まさしくもう、すさまじい雪、雪、雪。ひとシーズン分の雪が、空からドサドサと落っこちてくるといった感じ。

 降り出したのは、早朝からでした。午前を過ぎるほどに雪足が早まり(こういう表現がアリかどうかわかりませんが)、10時頃にはもう、当院駐車場への車の出し入れも大変な状況となりました。
車で受診した患者さんが、診察を終え、調剤薬局で薬をもらい帰ろうとした時、既に雪の中に車が埋もれ動けない。
こんなこと、はじめてです。

 土曜でしたので、お昼で診療は終了でした。
しかし、スタッフの車が駐車場から出せません。歩って帰れる人は歩って帰り、迎えに来てもらった人もいました。二人いるうちの看護師の一人の車が、どうにもならなくなっておりましたので、車の周りの雪をどけ、道路まで抜ける道をつくったはいいものの、タイヤがスリップして前に進まない。ギュルルンギュルルンと、音だけならもう、映画のカーチェイスのワンシーンのようでした。変な例えでごめんなさい。

 結局、ご主人が迎えに来てくれ、彼女が帰宅の途につけたのは午後2時半でした。全員帰還。ほっと一息です。
雪は降り続いており、その頃にはもう、膝上の高さにまで積もっていました。50センチはあったでしょう。引き続き雪かきをするのも無駄なような気がしました。というより、疲れきりました。
部屋に戻りカルテの整理などしておりましたら、ケータイが鳴りました。Nさんからです。毎月1回、往診に行っている患者さんです。
「Nさん?どうしました?」
「雪だよ。大雪のせいで、ヘルパーさんが夜は誰も来れないかもって云うんだべした。どうしたらいいべが」
「そうかあ・・・」

 Nさんのお宅は、町はずれのけっこうな山奥にあります。それも、県道から田んぼの中のあぜ道のような細い道を500mほど入ったところです。ちょっと積もっただけで、たどり着くには相当な勇気と根性を要する位置です。ここまでの大雪となると、ヘルパーさんの訪問は「無防備な雪山登山のようなもの」、と云っても言い過ぎではありません。
むしろ、大雪予報は出ていたわけですので、こうなる以前に対策を練っておくべきだったと、Nさんの声を聴いてから思いました。反省。

 脳卒中後遺症のため、からだの動きが不自由なNさんは、一人では立つことも歩くことも出来ません。一時はリハビリに通っておりましたが、心臓も患っているため、思うようなトレーニングが出来ず、最近は寝たきりの生活が続いていました。頭はしっかりしており、会話は可能です。ケータイをかけることももちろん出来ます。そのNさんが、必死の思いでかけてきた電話。

 いつもなら、Nさんの面倒は奥さんが看てくれています。他にご家族はおりません。二人暮らし。
お二人ともご高齢のため、いろいろと大変なこともあるだろうと、週に2回、訪問ヘルパーが入り、居宅介護支援をはじめて半年になる頃でした。
先週のことです。Nさんの奥さんが階段で転倒し右足を骨折、手術することになったのです。最短でも、1ヵ月の入院が必要とのことでした。
Nさん担当のケアマネージャー(以下、CM)さんが、奥さんが退院し体力が回復するまでの間、Nさんに老人保健施設へ短期入所していただくことを画策しましたが、あいにくと空いている施設が見つからず、施設が空くまでの間、ヘルパーさんの毎日の訪問でしのぐしかない。朝、昼、夜の3回訪問。
そういうことになった矢先の、今回の大雪でした。

 さて、どうしたものか、です。
まず、CMさんに電話してみました。
「とんでもないことになってるみたいね」
「そーなんですよ、先生。ヘルパーステーションからさっき連絡あって、昼はなんとか行けたけど、夜は無理そうって」
「無理なもんは無理でしょう。この雪じゃ」
「ほんと、いきなりこんなに降るなんてねえ」
そう話している間にも、雪はどんどん積もっていきます。
「こうなったら、病院に入院してもらうぐらいしか、方法はないよね」
「そうですねえ。やっぱり、それしかないですよねえ」
僕の提案に、頷くしかないCMさん。彼女も、とことん困りきった様子でした。

 今度は、ウチの近所にある枡病院に電話してみました。当直の先生に事情を話し、緊急避難的な入院は可能かどうかお訊きすると、「個室だったら空いています。それでよろしければ入院可能です」との心強いお返事をいただきました。感謝です。
個室料金がつこうが、それで入院出来るのなら御の字です。一応はNさんにも断らなければなりませんので電話しますと、「面倒みてくれんなら、どこだっていいべした」と、電話の向こうで苦笑い。

 これで一件落着かと思いましたが、Nさん。
「でもよ、先生。雪がすご過ぎて、きっと車入って来れねえよ」
「えっ?」
「まずは除雪車に来てもらわないと、ここから出ることは出来ねえ・・・」
病院を手配すればそれで事足りると思った自分が浅はかでした。事態はもう、そんなところまでひっ迫していたのです。
「ウチの隣が民生委員さんなんで、除雪車に来てもらうよう市役所に頼んでもらうから」
「わかりました、Nさん。僕は除雪出来次第、病院まで連れてってもらえるように、救急隊にお願いしておきます」
「ありがどない、先生。よろしくお願いします」
最後はもう、涙声になっているかのようなNさんの声。

 当地の救急車は、安達地方広域消防本部で運営されています。広域消防は、主に二本松を管轄する「北消防署」と、本宮や大玉を管轄する「南消防署」から成り立っています。管轄は絶対的なものではなく、困った時にはお互いが助け合うシステムになっていると聞いています。
当院は二本松にありますから、これまでも北消防署には何かとお世話になってきました。今回も、頼るのは北消防署です。さっそく電話し、Nさんの名前、住所を伝え状況を説明すると、担当者はすぐ理解してくれました。
「わかりました。Nさんから除雪の連絡をいただいたら急遽、救急車を出動するようにいたします」
その時点で、時計は3時を廻っていたと思います。

 民生委員さんが市役所に除雪車を要請→除雪完了→Nさんが救急車を要請→枡病院へ搬送という、一連の流れはこれで出来上がったわけです。枡病院への紹介状は、すぐにファックスしました。
あとはもう、除雪車が除雪してくれさえすればいいだけのこと。でも、除雪を必要としているのはNさんだけではありません。雪は街中に降り積もっているのです。
4時になり、再びNさんから電話がありました。
「駄目だ、先生。除雪車来てくんねべした。こっちまでは手が廻んないみたいだ」
「大丈夫だよ。待ってれば必ず来るから。病院の方は準備して待ってくれてるから、なんとかなるから待っててよ」
僕はただ、励ますことしか出来ません。
Nさんの電話の後、またケータイが鳴りました。最後に帰った看護師からです。
「どうした?」
「今、ようやく家に着きました」
「へっ?今なの?」
ウチからは5キロ程度の距離です。車なら10分もかからないでしょうに。
「車が、新幹線のガード下の吹きだまりにはまっちゃって、動かなくなったんです。しょうがないから歩いて帰って、ようやく着いたら家が停電で・・・」
疲れきった声に、返す言葉が見つかりませんでした。雪のせいで、ここまでのことが起きるなんて。

 時は刻々と過ぎていきます。
僕に出来ることは何もありません。ウチが停電にならないことが救いでした。逆に、今の生活がどれだけ電気に頼らざるを得ないかを思い知らされました。
5時になり6時になっても、Nさんからの連絡はありません。外はもう真っ暗。
Nさんの家は大丈夫か。停電になっていないか。寒さに凍えていないか。
7時になり、こちらからかけてみました。
出ない。
どうして?
もう、病院に着いているかもしれない。
枡病院に電話してみました。救急外来の看護師さんらしき人が出てくれました。
「まだ、いらっしゃってないんです。こちらでも待っているんですが、消防からの連絡もありません」

 かなり切羽詰まった状況であることを、その時点で再認識しました。もはや、Nさんの命にかかわる問題です。
居ても立ってもいられない。
北消防署に電話するしかありませんでした。
先ほどとは違う担当の方が出られましたが、事態は全て把握しておられました。Nさんの名前を告げた途端の、第一声。
「はい、Nさんですね。現在搬送中との連絡が入っております」
「えっ?じゃあ、除雪車が入ったんですね」
「いえ、除雪はされておりません。Nさんからの要請があまりにも遅いので、こちらから連絡し、改めて搬送要請を受け出動しました」
「でも、除雪してなけりゃ、救急車も入れないでしょう」
「はい、行けるところまで車で行き、あとは徒歩での搬送を行っているとのことです」
担当者は淡々と語るのですが、こっちとしてはまるでよくわかんない。
おそらくはもう、大の大人でも腰のあたりまで降り積もっている筈。その中を、徒歩で搬送?
「だいじょうぶ、なんですか?」
「はい、現在搬送中です」

 あまりにも冷静なその声とは対照的に、こっちはもうボロボロです。
なんてすごい人たちなんだろう。

 猛吹雪の中、雪が積もった田んぼのあぜ道。どこに何があるかわかったもんではありません。側溝やぬかるみに足を取られる可能性もある。雪の中で身動きが取れなくなる危険もある。
そんな中、一人の命のために突進していく救急隊の姿を思い浮かべると、涙が出てきました。
僕は、暖房の利いた部屋で、パソコンの前ケータイ握りしめていただけです。
医者なんて、そんなもん。
本当の意味で人の命と向き合っているのは、安達広域消防本部の彼らです。

 消防署であれば、救急隊であれば、それぐらいやって当然。そういうご意見もあるでしょう。そう言ってしまえばそれまでです。
でもね。あたりまえのことがあたりまえでないこの時代に、自らの危険を顧みず職務に全うする姿は素晴らしい。
彼らの存在こそが尊いのです。
ただただ、ありがとう。本当に、ありがとう。

 翌日、枡病院に入院したNさんに面会に行きました。
個室のベッドで退屈そうではありましたが、安堵の表情を浮かべておりました。
大雪の中での搬送は、僕が想像するより壮絶であったようです。

 実を申しますと。
3年前より、広域消防本部の産業医を仰せつかっております。
彼らのために、何かしらの役に立てる立場であることを誇りに思います。


平成26年3月18日

総合小児医療カンパニア「小児科医の役割と実践」の紹介

 8月30日、中山書店より発行されました。
「放射性物質汚染への対応」を執筆させていただきました。
小児医療に関わる方に限らず、多くの方々にお読みいただければ幸いです。
下記をクリックしていただけますと、中山書店HPにリンクいたします。

総合小児医療カンパニア「小児科医の役割と実践」の紹介

平成25年9月24日

リスク・トレードオフ

 数ヶ月前のことになりますが。
当院に、6ヵ月の乳児が母親に連れられ受診されました。主訴は「下痢」です。3週前から続いているとのことでした。
他院を受診し、下痢止めを処方されましたが一向によくなりません。
食事歴を伺ったところ、生後1ヶ月にて母乳から人工乳に切り替え、1ヶ月ほど前より離乳食を開始されたとのことでした。

 離乳食は、スーパーマーケットで売られている「レトルト離乳食」とのことでした。「8ヶ月用とありました。ちょっと早いかなと思ったんですけど、それしか置いてなくて」と、母。
レトルト離乳食と下痢の発症は、時期的にほぼ一致しておりました。20歳になったばかりの若い母にとって、離乳食調理ははじめての経験だったことでしょう。
当院看護師が調理について別室で説明したところ、意外な事実が判明しました。

 2歳上の夫の両親と、5人暮らしとのことでした。実家は農業を営み、食卓に並ぶ食材は自宅で採れた作物がほとんど。放射能検査は定期的に行い問題はありません。が、その食材で調理した離乳食を乳児に食させることを、夫が許さないとのことでした。

 子どもにだけ、他で買った食材で調理するのも夫の両親に申し訳なく、離乳食そのものをレトルトにしてしまった。母乳中止も、自身の放射性物質汚染を懸念してのことだったそうです。悩んだ上での選択だったのでしょう。
彼女を責める気にはなれませんでした。責めるべきではないと思いました。
レトルトではない、手づくりの離乳食に切り替えたところ、即下痢が治まったことは云うまでもありません。

 あるリスクを回避するために、他のリスクをこうむることを「リスク•トレードオフ」といいます。
まさしく、典型的な事例と云えます。

 他にも、被ばくを怖れるあまりに不必要な県外避難が長期となり、一家離散を強いられているケース、現在に至っても子どもの通学を(自家用車にて)送り迎えしなければ気が済まない、あるいは学校でのプールや体育などの屋外活動を規制する保護者や、土壌のセシウムを問題視し、「砂ぼこりは危険なので、風邪の強い日は外に出てはいけない」と力説する医療従事者さえおります。

 衣服についた砂は払えばいいだけのことです。セシウムがあろうとなかろうと、吸っていい砂ぼこりがある筈がないのは明らかです。ここまでになると、笑い話にさえ思えてきます。

 放射性物質のリスクを把握した上で、不必要な被ばくを回避することはもちろん、放射線以外の特に発がんに関する野菜不足、運動不足、受動喫煙などの生活習慣における危険因子の除去を心がけることが、今こそ求められているのではないでしょうか。

 冷静に考えてみれば、わかることです。
放射性物質による直接的な被害というより、放射能、放射性物質に関する知識の乏しさ、やみくもな恐怖心による精神的被害によるところが大きいのです。
不安を抱く方々には、その気持ちを否定することなく、ていねいに向き合い、寄り添っていきたいものです。
しかし、ひとたび植えつけられた不安は、どうあがいても払いようがないのも事実です。

 「ここが安全だ、安心だと周りから云われるたびに、『不安を感じているわたしがおかしい』と云われている気がします」と、涙ながらに訴えられたお母さんもいらっしゃいます。
「佐久間先生も、『ここは大丈夫』とおっしゃいますが、先生はここに居て、病院続けなくちゃいけないのですから、子どもたちが居なくなると困るから、ここは安全だって云うんじゃありませんか?」
思わず、笑いそうになってしまいました。哀しみを通り越して。

 震災から、2年以上が過ぎました。
時が過ぎただけのことです。
震災は、終結してはおりません。人の心の中で続いています。ましてや復興なんて。まだまだなのです。

 2020年、東京オリンピックの開催が決定したそうですね。
これはおそらく、喜ばしいことなのでしょう。
東京オリンピック招致が、福島を含めた日本人の心に「希望」となってくれることを願います。

 でも、大丈夫なのかなとも。思わずにいられません。
原発のタンクから漏れ出している汚染水は、これからどうなるのでしょう。
行き場を見失っている被災の方々の将来の生活を、どう見据えていけばいいのか。
きちんとケリをつけなければならないことは、たくさんある筈。あり過ぎるほど、ある筈。

 この国の舵取りをしている方々に対して、一つだけ、申し上げたいことがあります。

「人の心」を救えるのは、「お祭り騒ぎ」ではありません。
「人の心」を救えるのは、「人の心」に他なりません。

平成25年9月9日

打つなら今、大人も麻しん風しんワクチン

 関東圏を中心に、風疹が大流行しています。風疹は昔から「三日はしか」と云われ、麻疹(はしか)に比べれば軽くすみますが、子どものうちにかかっても重症化することもあり得ます。妊娠初期の妊婦さんがかかると、胎児に影響が出ることもあります。「先天性風疹症候群」とよばれ、心臓の奇形、難聴、白内障(目の真ん中の黒い部分が白く濁る)を特徴とします。

 その風疹が、今、東京から全国に広がる兆しを見せています。今のほとんどの子どもたちは、1歳になった時点や小学校に入る前に、定期接種として麻しん風しんワクチン(MRワクチン)を打っています。成人の男性では、接種したことがない人も多く、そういう人たちを中心に風疹が流行しているとのことです。万が一、免疫力が弱くなっている妊婦さんに感染した場合、先天性風疹症候群を引き起こす危険性大です。まずは、成人の男性がかからなくてすむように(特に、奥様が妊娠中、近い将来妊娠の可能性がある場合)、風しんワクチンの接種が必要です。

 もちろん、定期ではなく任意接種となりますので、接種は実費となります。しかし、先天性風疹症候群を予防するためには必要なことです。過去に風しんワクチンを打ったかどうかはっきりしない、または罹ったかどうかはっきりしない場合も、ワクチンを打っても支障はありません。免疫が強化されるだけのことです。現在の状況ですと、単独の風しんワクチンが足りなくなる可能性もあります。その場合は、MRワクチンを接種するのでもかまいません。この場合も、麻疹に対する免疫が強化されるだけの話です。

 なお、妊娠中の女性は風しんワクチンを接種することは出来ません。ワクチンにより先天性風疹症候群が起きる可能性があるからです。妊娠している可能性がある場合も、接種しない方がいいでしょう。夫を含め、20歳から50歳代のご家族全員(特に男性)がワクチン接種を心がけるのが一番です。付け加えて、妊娠可能年齢の女性が風疹ワクチンを接種した場合、接種後2ヶ月間は避妊しなくてはなりません。

 千葉市美浜区で「おおた小児科」を開業されている太田文夫先生とは、以前より懇意にさせていただいております。風しんワクチン、MRワクチンに限らず、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンなどの普及、定期接種化に並々ならぬ熱意でご尽力されてきた方です。
 数年前より、千葉マリンスタジアムや広島マツダスタジアム、広島市内の「カープ電車」にワクチン接種啓蒙の広告やポスターを掲示しております。
 はじめ、野球場に広告など、この人は一体何を考えているのだと、すぐには理解出来ませんでしたが、話をきいていくうち驚き、実現したときはほんと仰天しました。看板など、タダで出せるものではありません。太田先生ご自身が、全国の小児科医に募金を募り、実現にこぎつけました。当院でも、些少ながら協力させていただいております。

打つなら今、大人も麻しん風しんワクチン
打つなら今、大人も麻しん風しんワクチン

 写真は、マツダスタジアムに掲載されたばかりの広告です。大人へのワクチン接種を呼びかけています。
 太田先生によれば、東京、千葉の関東圏で流行中の風疹は、5月の大型連休を契機に全国へ広まるであろう、とのことです。ワクチン接種から免疫が出来るまでは約2週間かかります。

 今です、今。安達地方をはじめ、福島へ風疹を持ち込まないため、今この時期のワクチン接種が必要です。

 打つなら今!大人も麻しん風しんワクチン!


平成25年4月11日

4月よりの定期予防接種改正について

 本年4月より、予防接種が大幅に改正され、これまでは任意接種であったヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、子宮頸がん予防ワクチンが定期接種となりました。もっとも、これらのワクチンは二本松市、本宮市、大玉村では助成金制度がありましたので、「無料接種」といった点では、保護者のみなさまには特に変わった点とは感じられないかもしれません。
 しかし、定期接種と任意接種では、健康被害発生時の対応が全く異なりますので、この改正は大いなる前進と考えます。
 その他、BCGは生後6ヶ月になるまでの接種であったのが、1歳までの接種に変更になり、日本脳炎では、13歳未満が接種対象の上限のところ、平成7年4月2日~平成19年4月1日生まれの方で20歳未満の方は接種出来ることとされています。
 誤解やお間違いのないよう、よろしくお願いいたします。

 当ホームページの「予防接種」では、定期接種やヒブワクチン等に関する説明を行っておりますが、僕の無精さから未だ旧式のままの記載です。申し訳ありません。今月か来月の近日中に、出来る限り早く書き換えを行いますので、ご了承いただければ幸いです。

 付け加えて、大玉村ではロタウイルスワクチン、おたふくワクチン、水痘ワクチンの任意接種にも助成金制度を適用しております。たいしたものです。
 おたふくワクチン、水痘ワクチン、ロタウイルスワクチンも、早く定期接種化してもらいたいワクチンです。

平成25年4月9日

ウイルスプロテクター中止勧告発令のお知らせ

 最近、「携帯型空間除菌剤」なる製品を首からぶら下げている患者さんが目立っております。首からぶら下げるだけで、ウイルスを含む種々の毒性物質から身を守れれば、それはそれで便利なことです。しかし、医学的に考えても、そのようなことが可能になるとは思えません。
 もちろん、判断力のある「おとな」が、ご自身の意志で身につけるのには何の問題もありません。1000円弱のお値段で「安心」が買えれば、むしろ安いものかもしれません。

 ただし、子どもは別です。子どもがあのような大きさの携帯物を身にまとうことは、それだけで危険が伴います。例えば、歩行の際、何かに「引っかかり」、頸部が「締めつけられる」怖れがあります。当院受診の患児が身につけていた際には、そのような点をお話ししておりましたが、昨日消費者庁より、中止勧告が発令されました。

 放射性物質汚染同様、一方的な情報を鵜呑みにするのは考えものです。

平成25年2月19日

ウイルスプロテクター 1)製品について
ウイルスプロテクター 2)製品に関する事業者
ウイルスプロテクター 3)化学熱傷について
ウイルスプロテクター 4)この商品をお持ちの方の問合せ先

「心療内科(発達外来)」開設のお知らせ

 これまでも当院では、不眠やイライラ感など、心のストレスによると思われる訴えにも対応させていただいておりました。最近では、子どもの「落ちつきのなさ」や「こだわり」などの相談事も増えております。

 極度の重症例は専門医療機関に紹介することとしても、当院にても適切な診断、治療を行うことを目的としまして、この度「心療内科(発達外来)」を開設させていただくことといたしました。専門の臨床心理士とともに、お困りの方への支援に努めたいと存じます。
 ただし、発達障害については、診断をつけることそのものよりも、どのような接し方、ことばかけが望ましいか等に重点を置いた診療を心がけたいと思います。
 詳しくは、「診療内容」をご覧ください。

平成25年1月28日

「A2判定」を巡って についての訂正事項

 11月28日にアップしました「『A2判定』を巡って〜県立福島医大での甲状腺検診結果について〜」の記載の一部について、以前より個人的に懇意にしていただいている国立成育医療研究センター原田正平先生より貴重なご指摘をいただきました。

 「甲状腺は、首の前方、のど仏のちょうど前の辺りにあります。主に、サイロキシンというホルモンをつくっています。サイロキシンはヨウ素を原料とするので、放射性物質であるヨウ素131が体内に入ると(=内部被ばく)、ほぼ全てが甲状腺に貯まってしまい、発がんの原因となってしまう。なので、甲状腺がんが心配だ、とおっしゃる方が多いわけです」

 上の記載についてです。
 下記が、原田先生よりのメッセージです。

 「放射性ヨード摂取率検査では、正常値が15~25%とされています。つまり検査のために投与した放射性ヨード(現在ではヨウ素123ですが、昔はまさにヨウ素131でした)のうちの15~25%しか、甲状腺に取り込まれない、ということです。また、この検査値はヨード制限食を1週間程度したあとの値ですから、日本人のようにふだんからヨード摂取量が多い国民の場合、ヨード制限をしないと、摂取率は5%以下もあり得ます。ということで、『放射性物質であるヨウ素131が体内に入ると(=内部被ばく)、ほぼ全てが甲状腺に貯まってしまう』という表現は書き換えた方がよいと思います」

 食べ物からの経口摂取にせよ、空気中からの吸入摂取にせよ、体内に入ったヨウ素131の全てが甲状腺に集まるというのは、誤った僕の認識でした。
 お詫び申し上げます。
 大変失礼いたしました。

平成24年12月6日

「A2判定」を巡って~県立福島医大での甲状腺検診結果について~

 昨年3.11の時点で18歳未満の「小児」を対象として、県立福島医大にて甲状腺超音波(エコー)検診が行われています。原発事故による放射線被ばく線量が発がんの危険のないレベルとはいえ、万が一の事態を避けるためにも意義ある事業と考えます。

 甲状腺検診は、当院でも実費負担で行っております。僕はそもそも、甲状腺がんの発症を危惧してはおりません。にもかかわらず実施する理由は、お子さまの将来に不安を抱かれている、保護者のご要望にお応えするためです。異常を見つけることが目的ではありません。異常がないことを確認するため、あるいは、異常が見つかったとしても、現在においても将来も、心配には及ばない状態であることを知っていただくための検診です(万が一、心配な状態である場合は、県立福島医大甲状腺専門医への紹介など、然るべき対応を取らせていただく所存です)。

 さて、2、3週ほど前から、甲状腺検診を希望され当院を受診される方が増えてきました。みなさま、県立福島医大での甲状腺検診の結果をお持ちです。結果報告書を観せていただくと、「判定:A2」とあります。

 下の表をご覧ください。昨年10月から12月にかけ、計画的避難地域などの対象者3,765人に対して行われた甲状腺超音波検査の結果です。判定内容では、A2は「5.0mm以下の 結節(腫瘤)あるいは20.0mm以下ののう胞」となっております。A1は、「結節(腫瘤)、のう胞を認めない」とあります。A1もA2も、次回検査まで経過観察、二次検査の必要なし、とされております。
 判定結果が「B」になりますと、「5.1mm以上の 結節(腫瘤)あるいは20.1mm以上ののう胞」となり、二次検査の必要あり、ということになります。
 現在の県立福島医大の甲状腺検診も、この判定基準が用いられております。

福島県立医大にて実施の甲状腺エコー検査結果

 つまるところ。
A1は何もないから二次検査の必要なし、A2は何かしらあるけれど二次検査の必要なし、ということです。A2に関して、何が、どれくらいの大きさで、何個あるのかの説明は一切ありません。これでは、(A2判定をいただいた保護者や子どもさんの多くが)不安になるお気持ちも当然と云えます。故に、当院を受診されることになります。

 結論から申します。
A2判定をいただいても、全く問題なし。心配が及ぶ異常ではありません。ここでは、その点につきまして、やや詳しく説明させていただきます。

頭頸部のホルモン臓器
甲状腺の横断面解剖図

※頸部の断面を、足側から見上げております。

 甲状腺は、首の前方、のど仏のちょうど前の辺りにあります。主に、サイロキシンというホルモンをつくっています。サイロキシンはヨウ素を原料とするので、放射性物質であるヨウ素131が体内に入ると(=内部被ばく)、ほぼ全てが甲状腺に貯まってしまい、発がんの原因となってしまう。なので、甲状腺がんが心配だ、とおっしゃる方が多いわけです。

 上図下段の断面図でお判りのように、甲状腺は気管を取り囲むように、蝶のような形をした臓器です。右側を右葉、左側を左葉とよびます。両脇には頸動脈や頸静脈などの血管があります。

5歳♂ 正常甲状腺横断像

 5歳男児、正常な甲状腺です。超音波で観ますと、このような画像になります。超音波検査については「甲状腺検診」をご覧ください。超音波では、黒く映るのが血液などの液体、甲状腺や脂肪などは白く映ります。気管のように、前面が軟骨の場合は表面が白く、その内側は液体でなくとも黒く映ることになります。

エコーでみられる甲状腺の変化

 ここで、結果判定に出てきた、「結節(腫瘤)」や「のう胞」という言葉について説明いたします。
結節(腫瘤)は、普通の細胞とはちょっと違う細胞が集まった状態です。「違いの度合い」で、増殖力がそれほどでない「良性の細胞」と、増殖力旺盛な「悪性の細胞」に分けられます。良性の細胞では、円形のスムーズな形をしており、極端に大きくなることもありません。悪性ですと、いびつな形で目に見えて大きさを増していきます。形や大きさから悪性が疑われれば、甲状腺から細胞を採取し、悪性かどうかの二次検査を行うことになります。
のう胞は、組織の中に出来た「水の袋」のようなものです。これも、あまりに大きくなる場合は悪性が疑われます。

 それでは、実際の画像をご覧いただきます。

ケース1:52才♂ 甲状腺右葉にのう胞3個
ケース1:52才♂ 甲状腺左葉にのう胞2個

 ケース1は、52歳男性の甲状腺です。右葉に3個ののう胞、左葉に2個ののう胞がみられます。白の矢印がのう胞、黄色が頸動脈を指しています。右葉のうちの1個は、直径約4mmあります。画像で観ると大きく感じますが、実際には小さいものです。
この52歳男性とは、実は僕です。正常な成人の甲状腺の画像もあった方がいいかと思い、自分で自分を検査しましたら、こんなのがありました(笑)。のう胞にしろ結節にしろ、甲状腺には調べてみるといろいろとあるものだということは、以前より云われておりました。もちろん、困った症状はありません。

ケース2:72才♂ 正常な甲状腺右葉
ケース2:72才♂ 左葉腫瘤の縦断像30mm

 ケース2の72歳男性の甲状腺は、右葉は全くの正常です。問題は左葉です。白い矢印が指す位置に、16×19mmの結節が存在しています。左葉のほとんどは、結節で占められています。下段の縦断像では、長径が30mmあるのがわかります。こうなりますと、放ってはおけません。形はスムーズですが、とにかく大きいので細胞検査を行ったところ、良性の腫瘍であることがわかりました。今後も、定期的に超音波検査を繰り返していく予定です。

 ケース1、2とも成人ではありますが、先の甲状腺検診判定内容の表に当てはめますと、ケース1はA2、ケース2はB(あるいはC)ということになるでしょう。
ここから、「A2判定」を受けたお子さんの、当院での甲状腺超音波検査の結果を紹介いたします。

ケース3:10才♂ 右葉にのう胞1.8mm

 ケース3は、10歳男児。「A2判定」とのことで、お母さんが心配され当院を受診されました。甲状腺右葉、白矢印のところに、長径1.8mmののう胞を認めました。のう胞はこれ1個のみ、結節は認めませんでした。この程度でも、「あることはある」ので「A2判定」ということになります。

ケース4:5才♂ 右葉にのう胞8個 すべて系1mm程度

 ケース4は、「A2判定」の5歳男児です。右葉に1mm大の小さなのう胞が全部で8個見つかりました(画像では4個のみ示しています)。「8個もあるなんて・・・」と、驚かれるかもしれませんが、この程度ののう胞がいくつあろうとも、大きな問題にはなりません。

ケース5:10才♂ 右葉にのう胞1.2mm
ケース5:10才♂ 左葉にのう胞3.2mm

 ケース5は、右葉、左葉にそれぞれ1.2mm、3.2mmののう胞を認めます(黄色の矢印は頸動脈)。

 他にも、結節を認めたケースもありますが、皆、極めて小さいものです。この程度ののう胞、結節は、問題にはなりません。検査をさせていただく以上、所見として記録に残す必要があるだけのことです。
「A2判定」のケースが29.7%だったことから、「福島の子どもたちの3割に甲状腺に『しこり』」という報道が成されたこともありました。いい加減にしていただきたいものです。2mm、3mm程度ののう胞なり結節は、「しこり」とは呼びません。
ケース2のような結節であれば、立派な「しこり」と云えるでしょう。

 大人に限らず、子どもの甲状腺にも、のう胞や結節はもともとあったものと考えます。そもそも、今回のこのような原発事故のせいで、これだけ多くの子どもたちに甲状腺超音波検査を行うことになったのです。これまで、(検査を)していなかったからわからなかっただけと考えるのが、妥当のように思います。
付け加えて、現在のごく小さなのう胞や結節が、将来がんにならない保証があるわけではありません。不謹慎な言い方かもしれませんが、そうなったらなったで、その時に考えればいいのです。そうなる時に備え、これからも甲状腺検診は続けていくべきでしょう。
ともかくも。
「A2判定」に神経を尖らせる必要は全くありません。

 「A2判定」が戻ってきた保護者のみなさま。現実はこのようなことです。
何かあるとなれば、何もないよりは不安をお感じになるかもしれません。でも、不安を感じなければならないものがあるわけではないのです。
ご安心ください。

 常々申していることです。
親が不安を感じれば、子どもたちも不安になります。

 下記は、広島赤十字・原爆病院小児科部長 西美和先生がおつくりになられた「放射線による甲状腺への影響」です。こちらも、ご覧ください。

(下記をクリックしていただきますとダウンロード出来ます)

放射線による甲状腺へ影響

平成24年11月28日

わたしは「鬼」になる~大川小学校被災児遺族の悲痛な叫び~

 クリニックマガジン社「Medical Doctor 2012 11月号」に掲載いただいたレポートです。お読みいただければ幸いです。


(下記をクリックしていただきますとダウンロード出来ます)

クリニックマガジン社「Medical Doctor 2012 11月号」

平成24年10月29日

Fukushimaの「今」と「これから」

 2011年3月11日発生の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(以下、原発)の事故以来、放射線に対する恐怖が蔓延しています。特に、放射線は小児への影響が大きいとされ、育児中のパパやママたちにとっては大きな不安となっています。果たして、本当のところはどうなのでしょうか。

 ヨウ素131や、セシウム137などの放射性物質から発せられる粒子線や電磁波を「電離放射線」とよびます。紫外線や赤外線、短波やマイクロ波などは「非電離放射線」という種類の「放射線」です(下図「放射線の種類」参照)。放射線は放射線ですが、「電離」がつくと人体に影響が出る、ということになります。ただし、紫外線は「日焼け」の原因にもなり、長期的には「皮膚がん」も心配されるところです。
 一般的には、「放射線」と云えば「電離放射線」のことを指します。

 大地の岩石や土に含まれるウランやラジウム、食物中のカリウムから発せられる放射線等を自然放射線、レントゲン検査で受ける医療被ばくにおける放射線や、今回の原発事故による放射線を人工放射線として区別します。

放射線の種類

 放射性物質から発せられる放射線には、粒子線ではα線やβ線、中性子線があり、電磁波にはγ線やX線があります。飛距離や物質の透過性、人体への影響度はそれぞれで異なります。影響が最も強いのはα線や中性子線ですが、普通の環境では問題とはなりません。原発事故後の現在の福島で注意せねばならないのは、γ線とβ線です。下図に、放射性物質と放射線の関係を示します。

放射性物質と放射線

 どれほどの数の放射線が出ているかを示すのが「放射能」です。具体的には、1秒間に放射線を発する放射性物質の原子数、「Bq(ベクレル)」という単位で表します。放射線がわたしたちの体に与える影響を「実効線量」とよび、「Sv(シーベルト)」が単位となります。「等価線量」は、体の部位や臓器への影響のことで、同じく「Sv」で表されます。体の各部位の等価線量を足し合わせたものが、計算上の実効線量となります。その他、「Gy(グレイ)」で示される「吸収線量」などがあります。このように、放射線にまつわる用語は複雑でわかりにくいものです。
 日常生活との関わりの上では、「ベクレル」と「シーベルト」を理解していればよく、線量計で測定された空間線量が、大まかな実効線量と考えてよいでしょう。
 現在、線量計で測定される空間放射線量は、主として土壌に残存する放射性セシウムからのγ線によるものです。

 放射線を浴びることを「被ばく」といいます。これには、地面に残っているセシウムなどから発せられるγ線による「外部被ばく」と、放射性物質を吸い込んだり、食べ物と一緒に摂取することによる「内部被ばく」の二種類があります。内部被ばくでは、β線も関わってきます。
 どちらも、実効線量が同じであれば人体への影響も同じです。内部被ばくが特に危険、ということはありません。

 放射性物質には全て、放射能が1/2になるまでの半減期があります。ヨウ素131では8日と短く、セシウム137では約30年、ストロンチウム90では約28年、プルトニウム239では2万4千年にもなります。
 ただし、放射性物質が体内に取り込まれた場合、生物学的な過程により体外に排泄されるため、実質的な半減期はもっと短く、「実効半減期」とよばれます。新陳代謝の活発な小児ほど短く、セシウム137では1歳までが9日、9歳までが38日、30歳までが70日、50歳までが90日とされています。

 放射線を被ばくすることでの人体への影響には、「確定的影響」とよばれるものと「確率的影響」があります。確定的影響とは、ある一定のレベル(=しきい線量)を超えて被ばくすると現れる、やけどや脱毛、血液異常などのことです。しきい線量は100~250mSv以上であり、原発周辺の一部の地域を除いて、今回の原発事故でわたしたちが被ばくする線量ではありません。
 確率的影響は、どれほど少ない線量でも現れる可能性があるものを指します。現在、子どもたちの将来の発癌の危険性が問題視され、これが一番気がかりなところです。

 ここからは、発癌の危険性についてお話しさせていただきます。

 今から67年前、広島と長崎に原子爆弾が投下され、多くの尊い命が失われました。生き残った方々も、原子爆弾の放射線による確定的影響、確率的影響に苦しめられました。その方々を調査させていただいたところ、100mSvの実効線量では発癌致死率(癌を発症し命を失う危険率)が約1.05倍に増えることがわかりました。それより低い、100mSv未満では発癌率が増えたというデータはありません。

 大地の岩石や土などからは、自然の放射線が発せられています。世界平均では年間2.4mSv、日本では年間1.5mSvと云われておりますが、イランのラムサールという地域は年間10.2mSvという高い線量であることが知られています。ラムサールの方々に、特別癌の患者さんが多いということはありません。

 二本松市、福島市などの福島県中通りの原発事故後の空間放射線量の年間積算値は、地域によって多少のばらつきはあるものの、大体6~7mSv程度です。ラムサール地域よりも確実に低いのです。原子爆弾のような一回だけの放射線と、原発事故後のような長期的な被ばくは違うと心配されている方もいらっしゃいますが、同じ線量では一度に被ばくした場合と、時間をかけ被ばくした場合では同等の影響は出ないことがわかっております。被ばくした放射線が、一生をかけ積み重なっていくこともありません。

 チェルノブイリでの原発事故の後、周辺地域の子どもたちに甲状腺癌が多発したことから、チェルノブイリを福島の将来と心配する方がいらっしゃいます。チェルノブイリではヨウ素131に汚染された牛乳が子どもたちに飲ませられ続けたことにより悲劇が生まれました。福島では、そのようなことはありません。現在も、県内各地でホールボディーカウンターによる小児内部被ばく検査が続けられ、一生を通じて被ばくする実効線量(預託実効線量)が算出されております。現時点で、健康に影響が及ぶ数値は認められていません(※福島県ホームページ参照)。
 なお、ヨウ素131の半減期は8日ですので、現在食べ物の中に含まれている危険は全くないと云っていいほどです。問題となるのはセシウムですが、それにしても厚労相により厳しい放射性セシウム食品区分別新基準値が定められております(下図参照)。

食品区分別新基準値(2012年4月1日施行)

 以上のことから、空間線量による外部被ばくも、食べ物などによる内部被ばくも、ほぼ、というよりも全く心配がない、福島の子どもたちの健康には影響がないということが云えます。事故以来の風評被害により、福島県は産業面においても大きな打撃を受け、それは今も続いています。安全を主張すると、「状況を甘く見ている」とご批判を受けることがあります。しかし、紛れもなく、これが真実です。

 とはいえ、放射線の恐怖に脅えるパパやママたちもいらっしゃいます。それもまた真実です。内部被ばく検査は引き続き継続していただきたいものですし、県立福島医大が行っている甲状腺検診も意義ある事業と考えます。

 やみくもに、「福島は安全」とがなり立てるつもりはありません。今だ故郷に帰れず、不安な日々を送られている方々がいらっしゃいます。彼らの生活に平穏が訪れた時にこそはじめて、以前の「安心出来る安全な福島」に戻ったと云えるのではないでしょうか。何年、何十年かかろうとも、わたしたちはその日が来ることをあきらめてはいけません。
 何よりも。おとなたちが不安な顔をしていれば、子どもたちも不安になるのです。子どもたちの輝ける未来のために、わたしたちこそが現実を直視し、しっかりと前を向き歩いていこうではありませんか。

 上記の概要は、今月発行の、季節情報誌「ぷるぷる」vol6(株式会社DIPS発行)医療コラム欄に掲載いただいております。

(下記をクリックしていただきますとダウンロード出来ます)

医療コラム

 ※福島県ホームページ「ホールボディーカウンタによる内部被ばく検査について」(https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/wbc-kensa.html

【参考図書】
「放射線の子どもへの健康影響」(チャイルドヘルス2012 9月号・診断と治療社)
「放射線と健康」(舘野之男 著・岩波新書)
「低線量放射線と健康影響~先生、放射線を浴びても大丈夫?と聞かれたら~」(放射線医学総合研究所 編著・医療科学社)
「放射能から身を守る本」(安斎育郎 著・中経出版)
「放射線のひみつ」(中川恵一 著・朝日新聞社)
「原発事故の健康リスクとリスク・コミュニケーション」(長瀧重信 企画・医学のあゆみVol 239 No10・医歯薬出版株式会社)
「今、Fukushimaで生きるということ」(佐久間秀人・外来小児科2011;14(3):272-275) PDFファイル無償ダウンロード出来ます

平成24年9月12日